新車試乗レポート
更新日:2024.04.15 / 掲載日:2024.04.09

普通じゃない電気自動車モデル3。テスラは刺激的だ!【工藤貴宏】

文●工藤貴宏 写真●澤田和久、内藤敬仁

 ロケットを飛ばす会社を立ち上げ、所有する衛星経由で地球上ほぼすべての場所からインターネットにアクセスする会社は戦争の流れを左右するほどの存在となり、世界的なSNSのプラットフォームも買収。そして、自身は世界長者番付のトップに立ったこともある世界有数の富豪。

 イーロン・マスクは、お騒がせ発言で多くの話題を提供してくれるだけでなく実業家としての手腕に優れる人物だ。そんなイーロン・マスクが率いるEV(電気自動車)専門の自動車メーカーが「テスラ」です。

テスラの量販モデル「モデル3」が初めて受けたマイナーチェンジ

テスラ モデル3 ロングレンジ

 同社の創業期に多額の資金を提供したイーロン・マスクは2008年から同社のCEOを務め、2009年に「ロードスター」から始まった同社の自動車販売は2023年には年間180万台を超える規模にまで成長。同じ年の生産台数がスバルは約96万台、三菱自動車が約102万台、そしてマツダで約125万台といえば、今のテスラがどれほど大きな規模となっているかがイメージできるでしょう。

 そんなテスラのラインナップのなかで、もっともフレンドリーなモデルが「モデル3」。同社のイメージを作ってきた「モデルS」の2024年4月現在の価格が1296万9000円からなのに対し、モデル3は561万3000円から。車体がひとまわり小さいなどの違いはあるものの、半額未満なのだからずいぶん安く感じます。といってもそれなりの金額ですけどね……。

マイナーチェンジでウインカーレバーが無くなった!

テスラ モデル3 ロングレンジ

 モデル3は2023年9月に日本でもマイナーチェンジをおこなったのですが、最大のトピックであり驚きは斬新な運転環境。ダッシュボードは「モーターショーのコンセプトカーか?」っていうくらいスッキリしていて、その大きな理由はドライバーの正面にメーターがないからです。でも実はそんなダッシュボードの基本デザインは以前から同じで、今回のマイナーチェンジで変わったのは操作系。なんとハンドルの奥のウインカーレバーも(物理的な)シフトセレクターもないんですよ。そんなのアリ……?アリなんです。

 じゃあどうやって操作するかといえば、ウインカーはハンドルに内蔵されたスイッチで操作。スーパーカーに詳しい人は「あ、『フェラーリ』とか『ランボルギーニ』みたいな感じね」と思うかもしれませんが、まあそういうことです。

 よく「どうして輸入車は右ハンドルでもウインカーが左側についているの?使いにくいよね?」という声を聞きますが、この「ハンドルにウインカースイッチを内蔵」という作戦ならそんな疑問や、交差点を曲がろうとしてワイパーを動かしちゃうなんていうアクシデントとも無縁。実際のところはハンドルをぐるぐる回しながら操作するハンドル内蔵のウインカースイッチを使いやすいと感じるかどうかは意見が分かれるところでしょう。でも「他とはちょっと違うぜ!」というテスラらしいユニークさはあるといっていいでしょうね。

 ちなみに多くの輸入車は右ハンドルでもウインカーレバーを左側(右側とする国産車とは逆)にするのは、国際的な工業規格(ISO)で「ハンドル位置に関係なく左」と定められているから。例外として認められている日本と一部のアジアの右ハンドル国だけが特別なんです。

他のクルマとの「違い」を楽しめるならアリ

テスラ モデル3 ロングレンジ

 でも、そんなウインカーは序の口。それ以上に斬新なのがシフトセレクター。昨今のクルマは操作後に中立位置に戻る電子式だったりボタン式だったりとかつてのような“定番的なシフトレバーじゃないタイプ”が増えています。しかし、最新のモデル3はそんなもんじゃない。運転席周辺に“それらしいもの”が見当たらないのですから。

 じゃあどうやって「D(前進)」や「R(後退)」に切り替えるか。なんと、センターディスプレイの右端にあるクルマのイラストを指で上下にスライドすることで、前進と後退、を切り替え、画面上のスイッチを押して「パーキング」に入れるんです。間違いないのは、この方法は説明してもらわないと絶対わからないってこと。いわゆる“初見殺し”ってやつですよ。

 でも、そんな斬新な操作方法も「ほかとは全然違う。革命的だ」として気分よく受け入れてこそテスラのユーザー。イーロン・マスクみたいに奇抜でいいじゃないですか。ちなみにミラーやハンドル位置の調整なんかもタッチパネル+ハンドルスイッチでおこなうので相当癖がありますが、そのあたりは頻繁に動かすものでもないのでオーナーになったらすぐに慣れることでしょう。

 というわけで、そういった個性的な操作とスイッチを徹底的に減らして実現したインパネのスッキリ感はお見事。テスラに乗るということは「テスラという世界を味わうこと」だと強く強く実感します。

700km以上の航続距離や加速は凄い。でも気になるところもある

テスラ モデル3 ロングレンジ

 ところで今回試乗した「モデル3ロングレンジ」は1回の充電で走れる距離が706キロと、いま日本で買えるEVのなかで最長というのも大きなトピック。モーターを前後に搭載した4WDで、アクセルをグッと踏み込んだ時の加速は「凄い」としか言えないレベルでハイパワーEVらしさを堪能できます。いっぽうでアクセルをオン/オフしたときのスムーズさなどは国産のEVのほうがスムーズで、そういった制御の違いはEVのドライバビリティに対する考え方の差なのだろうなと思うところです。エンジン車はハイブリッドカーから乗り換えても違和感がないのは国産ですね。

マイナーチェンジでここが変化した

テスラ モデル3 ロングレンジ

 ちなみに最新のモデル3はスタイリングに変更を受けていて、ヘッドライトが細くなって見た目がシャープに。室内に入ると後席にエアコンの調整や音楽&動画を楽しめる8インチのタッチスクリーンが追加されたほか、窓ガラスがすべて遮音タイプとなり静粛性が高まり、フロントシート形状も変わり、さらには新しいドアヒンジやロックストライカーで側面衝突時の安全性を高めるなど見える部分から見えない場所まで広範囲にわたって細かくアップデート。大きく進化しています。

 そして乗って感じたのは以前に比べて乗り心地がよくなっていたこと。サスペンションの動きがしなやかになった印象で、これは誰からも歓迎されるに違いありません。

まとめ

 いまEVを買うべきかどうかは、その人の環境やクルマの使い方によって異なるので一概いえるものではありません。しかし、先進性とEVらしい走りを楽しみたいのなら、モデル3をはじめテスラを買うのも悪くない選択なのだと思います。

 テスラは操作性だけではなく販売方法をはじめメンテナンスや修理の流れも既存の自動車メーカーとは違ったりしますが、そこも含めて新しさや“違い”を実感できることでしょう。さすがですね、イーロン・マスク。

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工藤貴宏(くどう たかひろ)

ライタープロフィール

工藤貴宏(くどう たかひろ)

学生時代のアルバイトから数えると、自動車メディア歴が四半世紀を超えるスポーツカー好きの自動車ライター。2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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